ドクターサロン

 池田 口唇の紅斑という質問なのです。唇はもともと赤いので、なかなか紅斑というイメージがないのですが、どのような病気が隠れているのでしょうか。
 田中 まず、赤くなるというのは、唇を越えて赤くなる場合や、唇だけが変化した場合は、赤みがこの場合褐色調に変化するのではないかと考えられます。例えば口紅による接触性皮膚炎、つまりかぶれの場合は、唇を越えた少し広い範囲が赤くなることがあると思います。それから、扁平苔癬とか固定薬疹などでは唇だけに起こることがあります。さらに、光線性口唇炎、あるいはactinic cheilitis、これは有棘細胞癌の上皮内病変ですが、悪性病変なので、これの除外が最も大切だと思います。
 池田 今うかがっただけでも4種類ぐらいは鑑別しなければいけないのですね。
 田中 すぐに思いつくだけでもこの4つは重要かと思います。
 池田 まず、接触性皮膚炎は上下の唇と、その周囲も赤くなってくるのですね。
 田中 少し唇の範囲を越えて赤くなるのが特徴で、例えばリップクリームや口紅など唇全体に使うものにかぶれる場合が多く、全体に出現するのが特徴だと思います。
 池田 上下左右対称、そしてその周囲も赤くなるのですね。
 田中 はい。
 池田 患者さんはかゆみなどを訴えることはあるのでしょうか。
 田中 かゆみを訴える方もいると思います。
 池田 そういった特徴的な紅斑が見られたら、診断が難しいと思うのです。たくさんの種類の口紅やリップを使っていますよね。どれが合わないかというのはどうやって調べるのでしょうか。
 田中 まずパッチテストをします。口紅やリップで一番多い抗原はリシノレイン酸といって、ひまし油の成分になる不飽和脂肪酸ですが、比較的共通に含まれているものです。ですから、何を使ってもかぶれてしまい、ずっと使っていて大丈夫だったのに、最近かゆくなってきたというヒストリーが多いように思います。
 池田 共通したものが入っていて、それにかぶれるのですね。
 田中 そうですね。
 池田 すると、一つにかぶれると、ほかにもどんどんかぶれてしまうのですね。
 田中 香料や色素のほか、まれなものもたくさんありますが、共通に含まれているリシノレイン酸が多いといわれています。
 池田 何種類かパッチテストして、全部に反応するようであれば共通のものということですね。
 田中 はい、そう思います。
 池田 その際、治療はどうされるのでしょうか。
 田中 これはなかなか難しいのですが、リシノレイン酸を含まない口紅をある化粧品会社に作ってもらうことも考えられます。アレルゲンコントロールシステムみたいなシステムを導入している化粧品会社に依頼する際も、共通成分については考えなければならないと思います。
 池田 当座としては、化粧品以外の、例えばワセリンなどを塗っていただくのですね。
 田中 そうですね。そうなりますね。特別な化粧品を作ってもらうのは、地方だとなかなか難しいですね。
 池田 次に、固定薬疹の診断はどうするのでしょうか。
 田中 固定薬疹はちょっと黒っぽくなっているのが特徴です。黒ずんでいるところが1カ所に見られて、それがかゆくなったり、落ち着いてきたりを繰り返すうちに、だんだん黒くなっていくというのが特徴です。それで詳細にアナムネを聞いて、風邪薬や特に消炎鎮痛剤のたぐい、風邪によく出ているカルボシステイン、チペピジンヒベンズ酸塩の報告が多くありますので、まずこれを使っていないかを確認します。
 池田 特にNSAIDsですとアスピリンとかいろいろ入ってますからね。それをのむと、茶色いところに何か変化があるのでしょうか。
 田中 茶色いところが少し腫れぼったくなるとか、かゆくなる、少し赤みが増すことがあります。
 池田 日頃から少し常備薬でのんでいるような方はわからないですね。
 田中 わからないです。今まで大丈夫だったものが急に合わなくなるのがアレルギーの特徴ですので、むしろ患者さんがこれは大丈夫と思って使っている中に原因が潜んでいることになります。
 池田 では症状とアナムネで探っていくのですね。
 田中 はい。
 池田 その次の扁平苔癬とはどのようなものなのでしょうか。
 田中 扁平苔癬は体のいろいろなところに起こり、粘膜が一つの好発部位で、口腔内と口唇にも生ずることがあります。原因としては、薬剤性、金属アレルギー、またC型肝炎なども原因になることがあります。ですから、これらを順番に除外していくことが大切だと思います。
 池田 口唇の症状はどのようなものでしょうか。
 田中 1カ所、ちょっとただれているような症状があって、しみるとか痛いということもありますし、皮がちょっとむけてくることもあります。
 池田 広範囲に上下左右の口唇がやられるのではなくて、1カ所なのですね。
 田中 広範囲にただれる方もいますし、口腔内も連続性にただれる方もいます。
 池田 一般の医師ですと、口唇のアフタを疑いますよね。
 田中 アフタよりも少し広い範囲に白っぽくなって線状に広がるのが特徴かもしれません。口唇の場合にも、ダーモスコピーなどでよく見ると、ウィッカム線条のように白いすじ(条)が見える部分がありますので、それで疑わしいと考えることもあります。
 池田 アフタなどに比べて何か表面に角質のようなものが見られるのでしょうか。
 田中 そうですね。浸軟した白い角質が見られることが多いようです。
 池田 見分けは難しいですね。
 田中 そうですね。けっこう難しいです。
 池田 確定診断はどうされるのですか。
 田中 扁平苔癬はやはり生検が必要だと思います。というのは、扁平苔癬を疑う症状のときには、先ほど言いましたactinic cheilitis、つまり有棘細胞癌の上皮内病変の除外が必要になりますので、扁平苔癬との鑑別のためには生検が大事になると思います。
 池田 これは専門医に診ていただくことになりますね。最後に日光角化症でしょうか。
 田中 口唇部の日光角化症に相当します。
 池田 その場合はどのような症状になるのでしょうか。
 田中 この場合も、長年にわたってがさがさするという症状が続いた後に、だんだんと荒れた状態が広がって、ものがしみるということも起こりますし、痛みとして感じられることもあると思います。
 池田 何かざらざら感があるのですね。
 田中 そうですね。この場合、下口唇に多いという特徴があり、どちらかというと上を向いているというか、日光に当たりやすい下口唇に生じやすいのも特徴です。下口唇の中央部がただれているときに、この日光性の口唇炎は非常に重要な鑑別疾患になります。
 池田 日光性口唇炎という名前だけれども、SCC(squamous cell carcinoma)の前段階みたいなものですね。
 田中 そうですね。
 池田 ちょっと怖いですね。
 田中 そう思います。
 池田 やはり生検が必要ということですが、地方の患者さんですと、いきなり専門医に行って生検しろといってもなかなか難しいと思います。悪性の変化ですが、それとの鑑別のために何か軟膏を塗ったりすることはあるのでしょうか。
 田中 実は扁平苔癬と日光性の口唇炎、有棘細胞癌の上皮内病変は、生検をしても紛らわしい場合があります。扁平苔癬でも、偽癌性増殖という所見が見られて、それが皮膚病で診断上も問題となることがあります。そうすると、例えば扁平苔癬と仮定して、ステロイドを塗るという治療も推奨されると思います。
 池田 逆にいうと、扁平苔癬であればステロイド外用にある程度反応する。
 田中 そうですね。クロベタゾールのような強いステロイドを塗ることで、改善すれば扁平苔癬ではないか。それでも改善しなければ有棘細胞癌を除外する必要があると思います。
 池田 そうすれば患者さんも納得できますよね。
 田中 そうですね。その場合は是が非でも専門病院に紹介することが必要だと思います。
 池田 例えば、日光性口唇炎、日光角化症の仲間みたいなものをほうっておくとどうなるのでしょうか。
 田中 だんだんと硬さが増して、浸潤が強くなって、唇が変形していきます。
 池田 一般のSCCの範疇になって、どんどん浸潤していく。
 田中 そうですね。口唇癌、いわゆる扁平上皮癌という状態になっていきます。
 池田 取るのが遅れると、そこで増殖、浸潤していくだけではなくて、やはり転移もしてくるのですか。
 田中 はい、転移も起こします。
 池田 そうなると遅いですね。
 田中 そうですね。あまり進行しないうちに治療が必要かと思います。
 池田 口唇に角化性病変のようなものができると、どうしてもの場合はクロベタゾールでも塗って様子を見るけれども、そういった病変は専門医に紹介しなければいけないということですね。
 田中 そうですね。硬さが増すとか、治りにくい場合には、紹介する必要があると思います。
 池田 どうもありがとうございました。