池脇 高齢者の貧血について質問をいただきました。最終的には骨髄異形成症候群(MDS)のようなのですが、皆さん高齢者を中心に診療されていて、特に女性の場合には貧血の方は多いと思うのです。まずは高齢者の貧血に関して、どういう疾患が多いのかを教えてください。
臼杵 貧血は、ヘモグロビンが男性だと13以下、女性だと12以下ですが、高齢者になりますと臓器予備能が低下することから、高齢者ではヘモグロビン11未満の場合を貧血と呼ぶことが多いようです。60歳以上の高齢者の貧血については様々な原因がありますが、悪性腫瘍、感染症、消化管出血、この3つが高齢者の貧血の半数を占めるという統計があります。残りの半数のうちの半分、つまり全体の1/4を腎疾患、いわゆる腎性貧血、あるいは肝臓、肝硬変などによるもの、それから内分泌疾患、例えば甲状腺機能低下症など、それからリウマチや骨折、そのほかに造血器疾患、血液疾患、MDSなどが占めるといわれています。そして、残りの1/4がその他という統計があり、60歳以上の高齢者における造血器疾患が占める割合は全体の5%ぐらいで、決して多いものではありません。
池脇 悪性腫瘍から感染症、消化管出血、そして内分泌疾患と、原因が非常に多岐にわたっていて、何が原因かを一通り調べるとなると、けっこうたいへんですね。
臼杵 たいへんですが、高齢者はいろいろ基礎疾患を持っていることが多いので、貧血はその基礎疾患によることが多いかと思います。
池脇 確かに高齢者で悪性腫瘍の場合は早めに見つけて診断しないといけないこともあって、様子を見ようかというわけにもいかないのでしょうか。
臼杵 おっしゃるとおりかと思います。
池脇 高齢者の貧血を考える疾患はたくさんあるにしても、そんなに多くはないもののその5%を占める、造血器の、いわゆる血液疾患による貧血、MDSは、高齢者に多い疾患なのでしょうか。
臼杵 高齢者には多いのですが、比較的まれな疾患です。MDSは有病率が10万人当たり3人ということですから、決して多い疾患ではありません。年齢の中央値が70歳ですが、75歳以上の有病率は急に増加し、10万人当たり10人以上となり、高齢者に多いです。
池脇 疾患そのものはまれだけれども、年齢分布からいうと比較的高齢のほうにシフトしていることから、頻度は高くなくても、一応頭の片隅に置いておいたほうがいい病気ということでしょうか。
臼杵 はい、おっしゃるとおりかと思います。
池脇 診断するとなると、実地の医師ができるレベルというのが多分あると思うのですが、一般的にこのMDSはどういう病態なのでしょうか。
臼杵 MDSというのは、末梢血に汎血球減少がみられることと、骨髄で無効造血と骨髄異形成という形態異常があること、急性骨髄性白血病への移行のリスクが高いこと、の3つを特徴とする疾患で、病態としては造血幹細胞のクローン性の異常です。ですから、病態としては腫瘍に近いようなものです。
池脇 造血幹細胞、3系統にすべて行く、そこの根元の異常で、それがpancytopenia、汎血球減少症になるのですね。
臼杵 そうです。
池脇 おそらく臨床実地の医師もそれで貧血の検査で血液像をオーダーして、ちょっとした芽球もあるようなことになると、このMDSも考えないといけないのですね。
臼杵 はい。実地診療では血算を取った際に、貧血だけではなくて、ほかの白血球や血小板も少なくなっている場合に、まず再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などの血液疾患を疑うとよいと思います。もちろん、肝硬変の場合でも汎血球減少を呈することもありますので、そういう合併症がある場合にはことさら疑う必要もないのですが。
池脇 先ほどMDSは造血幹細胞の腫瘍性変化で起こる病気とおっしゃいましたが、MDSの名前の最後は症候群となっています。根本的な異常はそこだけれども、多少の多様性があるということですか。
臼杵 原因は造血幹細胞の異常ではあるものの、様々なものがあるものですから、単一の疾患ではないという意味で症候群になっています。
池脇 比較的経過観察でいいタイプもあれば、白血病化するタイプもあるのですか。
臼杵 おっしゃるとおりです。
池脇 MDSで一番怖いのは急性白血病に移っていってしまうことでしょうか。
臼杵 予後スコアというものがありまして、血算と骨髄検査の結果を基にいろいろ計算します。その予後スコアで、白血病に移行しやすい高リスク群と、そうでない低リスク群に分けます。いずれの群になるかでだいぶ予後が違いますので、正確に診断をすることが重要だと思います。
池脇 白血病化したときには基本的には白血病の治療になると思うのですが、MDSの治療に関して造血幹細胞移植は比較的新しい治療と考えてよいですか。
臼杵 そうですね。造血幹細胞移植は以前からありますが、唯一MDSを治癒させる治療であり、非常に強力な治療です。治療に関連する合併症による致死率が高く、若年者でなければ耐えられないような治療ですので、高齢者が多いMDSでは実際に移植が適用になる患者さんは少ないです。
池脇 何となく造血幹細胞移植は体に優しい治療かと思ったら、全く違うのですね。
臼杵 かなりたいへんです。
池脇 高齢者の場合には貧血があれば輸血をしたりといった補充療法を主にやって、白血病化したときには白血病の抗がん剤治療という流れなのでしょうか。
臼杵 10年ほど前に、生存期間を延長させることができるアザシチジンという薬剤が登場しました。ですので、早く診断をつけて、必要になればその薬剤による治療を行うことが重要かと思います。
池脇 白血病化するかしないかにかかわらず、MDSと診断したら早期に治療するような、そういうオプションなのでしょうか。
臼杵 白血病化しやすい高リスク群でのオプションとなります。低リスク群、もともと生存期間が長く予後がよいものでは、貧血に対してダルベボエチン治療が適応となり、その治療に抵抗性で輸血依存性にならない限りはアザシチジンの治療は必要ないかと思います。
池脇 最後に、再生不良性貧血との鑑別について教えてください。確かに両方とも汎血球減少症ですが、専門医はどのようにして鑑別されるのでしょうか。
臼杵 非常に難しいところです。骨髄異形成症候群も再生不良性貧血もいずれも汎血球減少を呈するのですが、骨髄異形成症候群は無効造血と骨髄の異形成の形態異常がみられます。それに対して再生不良性貧血は骨髄が低形成を呈します。一見、簡単そうですが、再生不良性貧血での骨髄検査で再生結節に当たると骨髄が低形成に見られませんし、逆に骨髄異形成症候群で骨髄が低形成の場合があって、そういう症例では再生不良性貧血の治療が効いたりするのです。
ですので、この鑑別自体は非常に困難なのですが、厳密に鑑別をするよりも、この疾患は再生不良性貧血に使う免疫抑制療法が効くタイプかどうかの診断になり、治療選択の観点が重要です。例えば骨髄が低形成で、トリソミー8などの染色体異常があるとか、血小板がわりと少ないタイプだとか、少々専門的になりますが、発作性夜間ヘモグロビン尿症の表現形質を呈するPNH血球が検出されるものなどでは、免疫抑制療法が効果があると考えられます。
池脇 専門医でも難しいということがわかりました。ありがとうございました。
骨髄異形成症候群
NTT東日本関東病院血液内科部長
臼杵 憲祐 先生
(聞き手池脇 克則先生)
75歳、女性、4~5年来貧血(+)RBC3×106前後、MCV 100前後、骨髄性といわれています。
骨髄異形成症候群の病態・診断・治療、再生不良性貧血との比較についてご教示ください。
福岡県開業医