齊藤
オンライン診療の有用性を示すという意味で、長い苦難の歴史があると聞いています。いかがでしょうか。
長谷川
私がこの分野に手をつけたのは1990年代半ばなのですが、本当に評価されていませんでした。あるいは、本当にそんなことをやっていいのか、悪いことをやっているのではないか、から始まりました。先進的なことをなさる皆さんからは少しずつ評価されていったのですが、実際10年ぐらい前までは、まだ低く見られることをかなり言われていました。この5~6年、急に変わったという印象を持っています。
齊藤
皆さんが疑いの目で見たということですが、有用性を示すための試みがされてきたのでしょうか。
長谷川
最初のうちは有用性というよりも、そもそも臨床的評価というものがよくわかりませんでした。エポックメイキングだったのは2010年ぐらいに、がんのターミナルと脳血管障害の後遺症の患者さんの有害事象発生率を在宅医療と2群に分けてレトロスペクティブで調べました。それで、「ああ、同じじゃないか」と。まずこれが、一つうれしい試みでした。ただ、レトロスペクティブでは広いデータは出たのですが、いろいろな要素が出てきて、前向き研究がうまくいきませんでした。結局、オンライン診療に活きるようなかたちで、いいエビデンスを出せないまま今に至っています。
齊藤
オンライン診療と実診療を1対1で比較するという試みは困難だったということですが、2020年から新型コロナウイルスがはやって、オンライン診療の明確な優越性というのが出ましたね。その辺はどうですか。
長谷川
まず一つには、慢性疾患の治療をきちんと続けるために、かなり大勢のプライマリーケア医がオンライン診療の世界に入ってきました。これが多分10倍以上の数で、一気に増えました。
齊藤
患者さんにとっても、あるいは臨床医にとっても、感染がないという絶対的なメリットですね。慢性疾患の治療を継続してもらうために皆さん、努力されてきたのですか。
長谷川
それが大きいと思います。また、今までなかなかきっかけがなかったプライマリーケア医が多かったと思うのです。大学や研究機関なら手を出せたとしても、普通の診療をやりながら新しいことを行うのは、よほど容易な手段ができない限り苦しいのだろうなと。けれども、2020年、プライマリーケア医から、この分野に入ってこなければならないという、かなりの意欲を感じました。
齊藤
実際に診療していて、患者さんが来なくなってしまうことを感じていたと思います。ただ、来ない人のデータは取れないと思うのですが、会社健診などのデータを見ていると、これまで高血圧治療をしていた人がコロナ禍で医師のところに行かなくなって、薬をやめてしまった。すると血圧が高くなる、血糖が悪くなるので、治療継続をしてほしいと思うのです。臨床医がオンライン診療をして、そういった人たちをしっかりキープして診ていただくのは重要なことですね。
長谷川
その話は、僕らから見ても、ああ、そういう視点があったかと。つまり、いったん途切れてしまった方がまた治療を再開すると、そこで経過が改善される。これは僕らから見ると、昔から取りたかったエビデンスそのものに近いところがあるのです。
齊藤
在宅勤務がすごく増えて会社に来なくなっている。そうすると、企業内診療所に社員の患者さんが来ないということで、企業内診療所も実診療からオンライン診療に変えて、患者さんに治療を継続してもらうという動きが出ているように聞いています。
長谷川
非常にたいへんな状況下ですが、そういうときの改善手段になったということは素晴らしいと思います。何しろテレワークというのは本当に健康に悪いと思ったことがありますから。
齊藤
会社に行く日は6,000歩歩くけれども、在宅だと500歩という人が多いですね。その間に体重が2~3㎏増えている人がいます。
長谷川
筋肉も落ちているのではないかなとか。
齊藤
それから、これまでのシリーズで、実診療とオンライン診療のハイブリッドにしている先生が多いように思ったのですが、いかがでしょうか。
長谷川
だんだんハイブリッドにしてうまく活用して、なじんでくださればと思います。オンライン主体はなかなかあり得ないし、かといって対面主体だといつまでたっても今の状況を改善できないと思います。だんだん慣れていただくといいような気がします。
齊藤
オンライン診療は手間もかかるけれども、費用面では低く見積もられていますね。
長谷川
そうなのです。本当は生活の中に医療を届けているのだから、往診とか訪問診療と同じぐらいの手間がかかっているようなものだと考えたいと思うのです。それにもかかわらず評価が低いのはちょっと苦しいと思っています。
齊藤
逆境にありながら、今オンライン診療をやっている医師は、クオリティが上がると、患者さんのためをすごく意識して、とにかく今はやって、これから認められることを目指したいという気持ちの医師がすごく多いと感じています。どういった方向性で力を結集していくことになるでしょうか。
長谷川
声を拾い上げられる仕組み、仕掛けがまだまだ少ないと思うのです。それは多分いろいろな面があるのでしょうけれども、声を出す場、あるいはどのような声を上げればいいのか、この2つをうまく作り上げて拾わなければいけないと思っています。
齊藤
先生が診ている患者さんの声もありますね。
長谷川
以前から私たちもトライアルをやっているとき、笑顔が増えたとか、これだけ笑顔で医師と話せるとか、一度始めてなじんだ方はやめたがらないとはよくいわれています。
齊藤
オンライン診療で、例えば治療継続ではメリットがあるわけですが、レセプトベースでデータを取るということもあると思います。今後の計画はどうなのでしょうか。
長谷川
2018年からオンライン診療料が保険収載されたので、まだデータが少ないのですが、もう少し待つとデータがそろい出して、レセプトを用いた研究のいいタイミングになると思っています。
齊藤
治療継続の研究は、医療機関ベースですと、しっかりした患者さんが多いクリニックでは継続率がよくなってしまい、ほとんど中断が見られないと思うのです。そうなると、大きなデータベースを見ていくのがいいように思いますが。
長谷川
本当にバイアスのないデータが欲しいですね。遠隔医療の研究者も、そういった研究方法までまだ至っていないので、早くそういった方法をうまく使いこなせるようにならなければいけないと思っています。
齊藤
データが見えることによって広く認められて合理的な評価をされていくことが期待されるということでしょうか。
長谷川
そういうことですね。
齊藤
ありがとうございました。