ドクターサロン

齊藤

オンライン診療についての患者さん、あるいは家族の視点からということでお話しいただきます。 先生はJaMITACというところで、どのような活動をされているのでしょうか。

黒岩

私どもJaMITACは、医師と患者・家族・地域をつなぐ懸け橋として、22年前から〔医療者・患者・家族・地域の〈納得と安心と信頼〉が通い合う“ありがとう”が行き交う医療?をみんなで創る〕という理念のもと、医師の生涯学習の場を支援することを使命として活動しています。

患者・家族・地域から医師へ求められている「人間力」「総合的医療面接力」そして今の「オンライン医療コミュニケーション力」を養成する「JaMITAC式総合的医療面接訓練7つの力」という双方向対話型のシミュレーショントレーニングプログラムを開発して、オンラインと対面で提供しています。「7つの力」とは、①関係構築力、②信頼構築力、③情報収集力、④臨床推論力、⑤共働決定力、⑥感情推察力、⑦行動変容力です。

齊藤

とても重要なポイントですね。先生はオンライン診療と関わりを持っているのですね。

黒岩

はい。そういう活動の中で、2020年の8月からはプライマリ・ケア連合学会の『オンライン診療を、質の高い第4の診療形態として、医療者・患者・家族・地域の視点から育成するプロジェクト』に協力しています。そして、2021年6月からは『オンライン診療診断学ことはじめ』という次のステージへ入りました。

齊藤

このような活動をされてきて、オンライン診療についての問題点などはあるのでしょうか。

黒岩

必要だと思われる施策的なことが5点あります。1つ目は、オンライン診療を導入することによって医療機関の経営がひっ迫しないような施策。2つ目は、オンラインでも医師が自信を持って診察できるような様々な遠隔モニタリングシステムやモバイルデバイス等々の導入支援。3つ目は、国民が納得・安心・信頼でき、そして感謝する、オンライン診療の質を担保する教育・研修の義務化。4つ目は、国民が積極的にオンライン診療を利用できるような支援策、例えば高齢者のITリテラシーを高める活動支援や、遠くの家族もオンライン診療に参加できるシステム導入の施策。それから、これも大事なのですが、5つ目は供給側、受注側、双方の納得のためのエビデンスの構築、以上の5点です。

齊藤

現段階でオンライン診療について、患者さん、ご家族のメリットではどういう点を感じているのでしょうか。

黒岩

患者さんや家族からの反応にはこういうものがあります。
・ いつもおざなりな5分診療のために交通費、時間を使って行くよりも、オンライン診療のほうが先生の顔も見えるし、安心で安全です。
・ いつも薬だけです。かかりつけ医で診察といっても、聴診器を当てるだけです。
・ 2年近く皮膚科通いですが、診察では「薬が切れそうです」の一言だけで、「はい、処方します」の10秒診察です。
・ 私の持病の定期受診はオンライン診療で十分です。採血や画像撮影のときだけ通院したい。たかが5分未満の診察に準備や往復時間や交通費や待ち時間が無駄です。

こういった対面診療への不満といいますか、そこからオンライン診療を支持するものがあります。

もちろん、素直にオンライン診療を歓迎する声もあります。
・ 待ち時間が長くて、診察時間が短いのが解消されてよい。
・ 薬もオンラインでいただけて、本当に便利になった。
・ 混んでいるとき、訴えたいことが言えなかったり、聞かなければいけないことが聞けないんだけど、先生が一定の時間を割いてくれるので、集中して話ができて、離れているけど密度の高い会話ができていると感じます。
・ 顔を見て、「大丈夫ですよ」と先生から言ってもらえるので、ああ、ちゃんと見てくれているんだという安心感があります。

ここから言えるのは、オンライン診療のトレーニングが対面での医療コミュニケーション改善に役立ち、対面診療の質を高めるということです。

先生がいつもおっしゃっている虫の目、鳥の目、魚の目を得て、侵襲性の高い検査や安易な処方に傾いていた臨床現場を見直すために役に立つと、ポジティブにとらえていただけますと、目の前が明るくなります。

齊藤

対面診療での欠けている点が、こういったことで補っていけるという、対面診療のみをやっている先生には少し耳が痛い話だと思いますが、非常に重要なポイントを出していただきました。

オンライン診療で何か不安を感じているポイントはありますか。

黒岩

先生方の懸念もあります。
・ 電話、オンライン診療は得られる情報が少なく、対面診療よりも過誤の可能性が高くなる。
・ 診察で得られる情報が少ないことで、患者さんが訴えるとおりに処方してしまい、不適切な投薬が増えてしまうのではないかと思われる。

患者・家族からも懸念や不安があります。
・ 肉眼で見るのとカメラを通して見るのでは全然違う。誤診されたくないからオンライン診療は受けない。
・ 直接診てもらっても誤診もあり得るのに、オンライン診療だと「えーっ、どうなのかな」という不安もある。
・ 医者とLINEやZoomでしゃべるだけで診察になるのか。

しかし、これらは私が先ほど提案しました「教育・研修の義務化」や「システムやデバイスの導入」で解決できるものと確信しています。

齊藤

メリット、デメリット、患者さんの立場からお話しいただきました。高齢、少子多死社会の中でAdvance Care Planning(ACP)が非常に重要といわれていますが、このACPにもオンラインを使っていこうとしているのでしょうか。

黒岩

はい。国が推し進めていますACP・人生会議は、事前指示書・Advance Directives(AD)・Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)などを取るためではない、「納得して自分らしく“生ききる”ための対話のプロセス」というコンセプトの浸透に、私どもも独自に開発した「人生の物語りメソッドモデル」で挑んでいます。今までのお話の中に、患者だけではなく、意識して「家族」という言葉も入れていますのは、「日本では家族が大切です」というアピールです。エンドオブライフ・ケアでは常に「家族への負担感」が大きなテーマとなりますし、患者の人生の最終段階の治療で、遠くの家族の訴えや主張が先生方を悩ますということもよくあることなのです。日常診療に同居家族だけではなくて、遠くの家族も参加させることがオンライン診療の普及とともに、ACP導入の助けにもなると考えますので、「遠くの家族のオンライン診療への参加」も医療機関の負担にならないように導入できる施策を切望いたします。

齊藤

今、親と子が別れて住んでいますから、一人だけが参加してほかの人が知らなかったという話があるので、オンラインでみんなで関与して決めていくことを試みるのですね。

黒岩

はい。それもオンライン診療の場を使うと、ACPというおおげさな感じではなく、自然にいろいろな話ができるのではないかと思っています。

齊藤

高齢社会、医療資源の偏在など、アクセスが難しい場合もありますが、そういった点をオンライン診療によって克服していくという中で先生の活動があるのですね。

黒岩

今おっしゃった医療資源偏在を解消して、医療へのアクセスを劇的に改善する「オンライン診療による新しい地域医療の姿」を、私ども、「JaMITAC式オンライン医療面接訓練士チーム」は応援しています。

齊藤

どうもありがとうございました。