大西
目々澤先生が取り組んでいる電子聴診器やAI問診を中心にお話をうかがえたらと思います。
診療所、クリニックにおいて医療のデジタルトランスフォーメーションに具体的に取り組んでいると思いますが、まずAI問診のことからうかがいます。先生のクリニックのホームページなどを見ますと、慢性頭痛に関してAI問診が整備されているように感じたのですが、そのあたりから教えていただけますか。
目々澤
もちろんこのAI問診はほかの疾患にも使えるのですが、私がこのAI問診と出合ったのは、まだ発売される前でした。そのときちょっと興味があったので勉強会を訪れてみたところ、10人ぐらいのメンバーが集まっていました。そのアプリを動かしてもらって、私の専門である片頭痛の患者さんを想定して選択肢を選んでいったら、見事にそれが片頭痛だとAIが診断を出してくれた。慢性頭痛のうち片頭痛はクイズの部品が幾つかそろっていれば、もうそれと言いきっていいという、面白い疾患です。その辺をきちんと整理して、ばっちり当ててくれたことから、そのアプリの第1号使用者となったのがきっかけです。
大西
頭痛の鑑別は難しい場合がありますが、けっこう当たるのですね。
目々澤
経験則というよりも、そのクイズのネタを知っているかどうかが大切で、それにしっかり合致したものを作ってくれた。実は以前、私はファイルメーカーというアプリケーションで、そういう問診票ができないものか使ってみたのですが、なかなかできるものではない。しかし、このアプリは患者さんが一つ一つ答えのパネルをさわるだけでいいという、お年寄りにも使えるインターフェースだったことにたいへん感銘を受けました。
そしてまた、その出てくる結果がきちんとしている。さらに、それでできてくる文章がとてもありがたい。我々の電子カルテを使った診療は患者さんから聞いたことを自分でテキストに起こしながらやっていくわけですが、それをやっていると、患者さんの目を見てお話しすることがなかなかできない。このAI問診で作られた文章はそのまま問診として貼りつけられていて、そこに幾つかの足りない項目をタイプ打ちしていけば、それで問診が出来上がってしまう。そして、患者さんごとの状況に応じて必要な質問が付加され、こういう病気も考えたほうがいいというサジェスチョンをもらえるのです。
大西
慢性頭痛でAI問診をやって診療に使うことは診療行為として正式に認められているのでしょうか。
目々澤
診療行為としては全く評価になっていません。これを診療行為にするのであれば、AIを使ったものはみんな、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)などで評価を受けなければいけなくなります。それが診断に結びつかない。要するに、アシスタントとして文章を作るまで、そして、こういう病名を想定していますぐらいのサジェスチョンであるところがミソだと思います。実際に病理や診断名をきちんと出すためには、PMDAなどが関わって医療機器として認定が必要になりますが、このAI問診はそこまでのレベルではないと思います。
大西
電子聴診器の現在の開発状況についてはいかがでしょうか。
目々澤
開発自体に私は携わっていないので、詳しいことまではわからないのですが、今から10年ほど前に、普通のエレクトレットコンデンサーマイクに注射器をつけ、その先にパイプをつけて、リットマンの聴診器のヘッド部分をつけてみた。それで音が拾えるかというと、実際、拾えるものではないのです。ところが、ネットニュースでこういうものを開発したグループがあることを知り、第1回の発表会に参加しました。そこで見せていただいたのですが、同じようにリットマンの聴診器のヘッドをつけ、音を集める装置で増幅し、Bluetoothで飛ばすという技術を一つの箱にまとめたものが、その約1年後にネクストステートとして発表されました。
これを用いたときはたいへん驚きました。最初の状態ではヘッドホンを使って音を聴くのが限界だったのですが、その後、少し改良が進み、スピーカーを通しても音を出すことができるようになりました。ということは、聴診器のイヤーピースを耳に入れて聴かずに済む。例えば、健康診断などで400人ぐらいの生徒の聴診をするとき、イヤーピースを耳に入れて聴くのは我々にとってたいへん苦痛です。それをヘッドホン、もしくはスピーカーで代用できるようになれば、とても我々医師の労力軽減になる。そのように考えています。
大西
全校健診で非常に疲れますね。
目々澤
全校健診だと6学年、いっぺんに来ますので、終わったときには耳が痛くて痛くてという状況になってしまいます。
大西
イヤーピースがないものもできるという感じですね。
目々澤
イヤーピースはほとんどいらなくなりました。
大西
肺音や心音をとらえて、それを解析してアプリに送るとか、いろいろ開発されているように聞いていますが。
目々澤
できればその辺のところまではきちんとスマートフォンで通してやっていただく。そうなれば、遠隔診療、オンライン診療のときの、たいへん便利な道具になるかと思います。
大西
患者さんに結果をお知らせすることも多いかと思うのですが、それも今はいろいろなデバイスを使ったりして行っているのでしょうか。
目々澤
そうですね。メールやSNSを使用しています。ただ、SNSの場合、医療情報を扱うには不安なところがありますので、専用のサーバーサービスを使って情報提供を助けてくれる会社を使って患者さんに情報を配信しています。
大西
先生の診療所では、実際、オンライン診療の流れとはどのような感じなのでしょうか。
目々澤
オンライン診療の中にAI問診のかたちに似せた質問項目を並べて、そこにチェックをしていただいて、こちらに返してもらっています。ですから、私は初診からでも頭痛はある程度は診られると考えていますが、全体の趨勢としては初診はあくまでも対面で、そして初診以降のフォローアップに関しては、慢性疾患であればかかりつけ医によってオンライン、というのが医師会で望んでいる流れだと思います。
大西
血圧の管理もありますよね。
目々澤
やはり五感のうち、においがわからないのはとても大切なポイントです。今のオンライン診療の問題点は、画面が小さくて、こちら側から説明のための画像を流したりなどがまだ自由にできないことです。それもあってweb会議システムでオンライン診療をされる医師もいると思います。
大西
往診ではどうなのでしょうか。
目々澤
私は、患者さん個別の往診はやっていません。ただ、特別養護老人ホームの配置医をやっていますので、そこにPCを1台持ち込んで、それをネットワークにつなぎ、全部、普通の院内でやっているのと同じ診療ができるようにしています。
大西
日々の連携などもできるのですね。
目々澤
そちらは、医療・介護連携のSNSを使って職員と結びつきができています。彼らにとって医師の医療行為を妨げるのはどうかということで、電話を使って医師に連絡をするのはかなりハードルが高いようです。そこでSNSを使用して、いつ書き込んでもいいよ、ただ、急ぎのことだけはきちんと電話してねとお願いしています。こちらもいつ答えを返してもいい。患者さんの看取りや急な熱発、急な意識障害、そういうものが起こったときは必ず電話です。でも、それ以外の軽い熱発とか、「吐いてしまいました。どうしましょうか」というような問い合わせはSNSを使った連携で行っています。
大西
コロナ禍で医療現場はたいへんな状況になっていますが、逆にデジタル化も一部進めるような動きもあるかと思いますが。
目々澤
結局、なるべくしてなったというのが私の感想です。今までのテクノロジーがある程度集積してきて、それが3年後、4年後になったらこうなるのではないか、そういう世界がコロナ禍で一気に実現したのだと思っています。
大西
ドイツなどのニュースを見ると、クリニックでコロナの検査キットも郵送するなど、海外ではいろいろやっていますが、ああいうこともできるようになるのですか。
目々澤
そういうサービスを始めている業者さんもいますが、果たして日本でそれが正しいのかどうか。実際に本人確認という大きな問題もありますので、その辺に関してはしっかりとした検討が必要ではないかと考えています。
大西
これからますます医療のデジタルトランスフォーメーションは進んでいきそうですね。
目々澤
はい、そう思っています。
大西
ありがとうございました。