池田
尿道カルンクルとはどのようなものでしょうか。
巴
尿道カルンクルというのは、更年期以降の女性に好発するもので、尿道の炎症性の病変です。尿道の6時方向から尿道粘膜に覆われたラディッシュのような赤みのある腫瘤が尿道口の外側に向かって突出している状態です。
池田
大きさはどのくらいなのでしょうか。
巴
米粒大から小豆大ぐらいですが、炎症性にもう少し大きくなることもあります。
池田
良性のものなのですよね。
巴
はい、良性です。多くの場合は無症状で、本人も気づかないままずっと過ごしていることが多いのですが、下着にこすれたりして出血をして、あわてて婦人科などを受診されることが多いのです。こすれているとさらに炎症が増えて、だんだん大きくなってきて、さらにこすれるというようになり、痛みを伴うことがあります。
池田
でき始めというか、小さいときは何の自覚症状もないのですか。
巴
そうですね。でき始めのときというのは本人も気がつきませんし、たまたま内診などほかのことで診たときに、ちょっと6時方向にピンク色の尿道の粘膜色をした小さい腫瘤があるなというぐらいで、そういうときには何も治療をする必要もない状態です。
池田
泌尿器科医が最初に見ることはないのですね。
巴
そうですね。ただ、尿失禁や骨盤臓器脱などで内診をしたときに、たまたま尿道カルンクルもあると見つけることはありますが、本人は全く症状がないという状態です。
池田
男性にはないのですね。
巴
男性にはないですね。
池田
更年期以降の女性ですか。
巴
はい。
池田
この発生原因と質問に書いてあるのですが、どのようなものなのでしょうか。
巴
おおもとの発生原因はわからないのですが、更年期以降の方に多いということから、やはりエストロゲンの低下が関係あるのではないかといわれています。いったんそういった尿道の粘膜が脱出してくると、たまたま自転車に乗ったり、きついジーンズのようなものをはいたりすると機械的な刺激が加わって炎症を起こし、より一層大きくなるということで、ある程度大きくなってきてから初めて気づかれるため、原因はあまりよくわかっていないと思います。
池田
閉経以後の女性に多いということなので、エストロゲンの関係が推測されているのですね。どうして6時の方向だけなのでしょうか。
巴
どうしてかはわからないですね。似たような尿道粘膜の病気で尿道脱というのがあるのですが、それは全周性に尿道の粘膜が外反して脱出してくるもので、やはり更年期以降の女性に見られるのですが、それとは異なるものです。どうして6時の方向だけかは私も原因がわからないです。
池田
6時だけというのは逆に診断的な根拠にはなるのですね。
巴
そうです。尿道の粘膜をかぶっているので、炎症のないときは薄いピンク色で、ぷつんとした感じですし、炎症が加わってくると、ちょっと透明感がある赤みがかった腫瘤として確認されます。
池田
あまり自覚症状がない方も多いということで、どのくらいの頻度で発生するかもわかっていないのでしょうか。
巴
下着にこすれて出血をしたりして初めて病院に来られることが多いので、全体の女性のどのくらいの方にできているのかはわかりませんが、比較的多いのではないかと思います。
池田
原因もわからないし、自覚症状もないので、よく婦人科検診で見つかることが多いと思うのですが、それでもあまり頻度は高くないのでしょうか。
巴
多分見つかっていても、特に治療する必要もないし、自覚症状もないので、検診で見つけた医師が特にそれを指摘して本人に伝えることはないのだと思います。
池田
悪性ではなくて、ポピュラーなものになっているので、いちいち指摘しなくても、ということですね。
巴
そうですね。
池田
あまり皆が注目しないものでしょうか。
巴
あまり注目するものではなくて、加齢による変化ぐらいにとらえていただいていいと思います。
池田
見つけても大騒ぎはしないということですね。
巴
そうですね。本人にも伝えていないと思います。
池田
治療法で保存的治療、あるいは外科的治療があるのですが、どのような保存的治療をされるのでしょうか。
巴
下着に血がつくと本人は気になりますので、病院にいらした場合はエストロゲンの軟膏を塗ったり、ステロイドの軟膏を塗ったり、抗炎症、炎症を抑えることに努めることになりますが、日本ではエストロゲンの軟膏はありませんので、ストロングに分類されるステロイドの抗炎症軟膏を塗ることが保存的治療になります。塗って、あとは自転車に乗るなどの、カルンクルがこすれるようなことを避けていただければ、多少縮んで、縮めば下着に当たってこすれる、出血することがなくなりますので、そうなりましたらそれで経過観察となります。軟膏を塗っていったん小さくなってもまた出血する、こすれる、痛いということが繰り返されるようであれば、外科的にカルンクルを切除することになります。
池田
切除の方法はどのようにされるのですか。
巴
局所麻酔で電気メスでジュッと切除するだけで、場合によっては外来でもできます。
池田
いちいち切り取って縫合するのですね。
巴
小さければ縫合も必要ない場合もあります。1針、2針ぐらい縫合するということもありますが、あとは1日ぐらい尿道のカテーテルを入れておくこともあります。それにしても外来で手術は可能です。
池田
局所麻酔で小さくできるということですね。
巴
はい。
池田
入院してたいへんなことにはならないのですね。
巴
治療はよほど大きくなって出血を繰り返すとか痛みがあるような場合でいいと思います。
池田
逆に、そういった症状がない場合は放置でかまわないのでしょうか。
巴
そうですね。全く無症状であればもちろん放置ですし、あとは出血しても少し軟膏を塗るぐらいでおさまったということであれば、やはり放置でかまわないと思います。手術になるような症例はそんなに多くないと思います。
池田
放置しておいて悪性化しないのかという考えがあると思うのですが、悪性化はしないのですか。
巴
基本的には悪性化はしないと思います。
池田
それがはっきりしていれば安心ですよね。
巴
悪性なものかどうかを鑑別するためにカルンクルを生検、バイオプシーをするとか、そういったことはしません。外科的に切除した場合にはそれを病理検査に出して、悪性ではなかったという証明というか、そういう検査は出しますが、見た目でほぼ確認できるといいますか、だいたい尿道の粘膜をかぶっているので、つるんとしているのです。
池田
先ほどおっしゃったラディッシュみたいな感じで、表面がつるんとしているのですね。
巴
そうです。
池田
ちなみに、例えば尿道がんなどがあると表面が違ってくるのでしょうか。
巴
ぷつっと一つの腫瘤というよりは、もう少しでこぼこしていたり、色合いが違うとか、いつも見ているものとは違うという感じを受けるのではないかと思います。
池田
先ほど鑑別でおっしゃった尿道脱ですが、これはどのような感じになるのでしょうか。全周がやられるというお話でしたが。
巴
これも閉経後の女性、更年期以降の女性なのですが、こちらは有病率が3,000人に1人と書かれているものもあります。カルンクルに比べると、よほどまれな疾患です。全周性に尿道の粘膜が外反して脱出している状態で、病院を受診されたときにはもうすでに尿道脱全周性に尿道粘膜が外反して脱出し、一部粘膜が絞扼され赤黒く変色している。赤黒くなっている。牛肉様の赤みといわれていて、実際に見ても、カルンクルの場合はちょっと透明感がある赤なのですが、こちらは赤黒い感じで、外反して脱出することによって尿道口のところが絞扼され、それでちょっとうっ血をしているような状態で、こちらのほうがよほど痛みを伴います。
実はアフリカ系のアメリカ人の女児にも発生するといわれています。そちらは多分先天的なもので、尿道の内側の縦走筋と外側の輪状筋、その間の接合異常があって、腹圧をかけたりしたときにそこがずれて尿道の粘膜が脱出してしまうことが推定されていますが、日本人のお子さんの尿道脱を紹介されたことはないです。閉経後の女性となると、エストロゲンの低下が原因と考えられています。
池田
尿道カルンクルは放置しておいてもいいけれども、尿道脱は手術が必要ということですね。
巴
そうですね。尿道脱の治療としては、エストロゲンの軟膏やステロイドの軟膏の塗布が唯一の保存的治療といわれています。大きいままにしておくよりは軟膏を塗ったほうがいいと思いますが、軟膏を塗っていても、小さくなるのはなかなか難しいので、結局のところは手術をすることになります。
池田
どうもありがとうございました。