ドクターサロン

池田

アタマジラミ症について質問がきているのですが、何か最近、問題になっているようなことがあるのでしょうか。

山口

戦後はやっていたのはあると思うのですが、その後、いわゆるスミスリンシャンプーといったものが市販薬で販売されてから、いったん減ったといわれていたのですが、最近またその販売数が増えてきているということで、シラミが増えているのではないかという話があります。

沖縄県でスミスリンシャンプーがなかなか効かないシラミが2000年ぐらいから出てきて、調べてみると、アタマジラミ自体にスミスリン耐性の遺伝子変異があることが見つかっています。沖縄県ではこの耐性化したシラミが90%以上検出されるという現状となっています。

池田

ちょっと恐ろしい話ですね。9割、薬が効かないシラミが頭についているということですが、沖縄だけなのですか。それとも全国レベルなのでしょうか。

山口

1994年にフランスでこの薬が効かないシラミがいるというのがわかって、実際調べてみると40%ぐらいが効かないというところから始まりました。遺伝子変異が原因なのですが、これらの変異を調べると、ヨーロッパやアメリカを中心にこの耐性化がどんどん進んでいることがわかりました。日本では2010年に全国的な調査がされていて、多少地域差があるものの、全国的には10%以下というところがほとんどだったのですが、なぜか沖縄県だけ90%以上の耐性化があったことがわかっています。

池田

おそらく沖縄で増えている耐性のシラミは海外から来たのですね。最初に遺伝子変異を持ったシラミは、フランスとか、海外なのですね。

山口

そうですね。どういう経路で持ち込まれたかがちょっとわからないのです。

初めにいわれたのはヨーロッパやアメリカが中心で、この耐性化が進んでいる国々は、昔からスミスリンなどのピレスロイド製剤がかなり広く使われてきました。そのような国々で耐性化がより進んでいます。日本でシラミの駆虫薬はピレスロイド製剤しかありませんので、そういったこともあって日本でも耐性化シラミが出てきているのかと思います。

池田

基本的にアタマジラミの感染はヒトからヒトにコンタクトで行くのですね。

山口

はい。

池田

どうも日本だとアタマジラミというと、昔は、子どもの頭に粉をかけていたように、子どもの病気だと思うのですが、大人でもなるのでしょうか。

山口

もちろん大人でもなることはあり、こういうものはお子さんからお母さんにうつることが多いです。時々高齢者施設でシラミの方がいらっしゃることがあります。

池田

沖縄には中国も含めて海外の方がたくさんいらっしゃいますよね。今はいないですが、そのような感じで入ってきたとも考えられるのでしょうか。

山口

インターナショナルスクールなどの、いろいろな国々から生徒が入ってくるような学校で、かなりこの耐性化シラミがはやっていて問題になっているとよく聞きます。こうしたことから、外国からの入れ替わりといったものが多いところは、より耐性化しているシラミが多いのではないかと思っています。

池田

アタマジラミの診断はどのようにされるのですか。

山口

診断は毛髪に卵がついていますので、卵を確認する。もしくは、シラミの虫体自体を確認できればすぐ診断になります。

池田

卵もしくは虫体を見つけることで診断は確定するのですね。

山口

はい。

池田

ついているシラミが耐性なのか、そうでないのか、なかなかわかりづらいと思うのですが、治療としてはまずスミスリンシャンプーを使うのでしょうか。

山口

日本にはこの薬しか今のところないのです。沖縄県以外であればまだ有効な症例がほとんどと考えていいと思いますので、市販薬のドラッグストアで売っているものを買っていただいて処理をしてもらうことになります。

池田

ちなみに、スミスリンシャンプーの使い方というのはどのような感じなのでしょうか。

山口

シャンプーとパウダー製剤があるのですが、どちらも髪の毛につけて5分ないしは10分放置した後に洗い流すことを、中2日空けて3日おきに3~4回繰り返し使っていただく必要があります。虫には効くものの卵に効かないので、卵が孵ってくるタイミングでまた薬を使うことが必要になってきます。しっかりこの3~4回というのを守っていただいて、治療することが必要です。

池田

用法をしっかり守ったけれども、卵もあるし、虫もいなくならなければ、耐性化のシラミということなのでしょうか。

山口

県外から難治性のなかなか治らないシラミについて相談を受けることがあるのですが、遺伝子変異を調べてみると全例に変異が見つかります。通常どおりスミスリンシャンプーを使っても治らないというシラミに関しては、遺伝子検査をするしないは関係なく、耐性化のシラミだと思って対応する必要があると思います。

池田

その際の対応はどのようにするのでしょうか。

山口

海外だと耐性化したシラミにも効く薬があるのですが、まだ日本では導入されていません。今のところは梳き櫛を使ってどんどん物理的に取っていくしかないです。

池田

具体的にはどのようにやるのですか。

山口

金属製の専用の梳き櫛がありますので、そちらを用意していただいて、連日、梳き櫛で頭全体、毛髪全体を梳いていって、卵あるいは虫をどんどん取っていく処置をします。

池田

それはシャンプー、リンスをやった後の髪が濡れたようなときですか。それとも乾かしてやるのでしょうか。

山口

乾かした状態のほうがいいと思います。金属製の櫛がかなり目が細かいものになっていますので、なるべく頭をきれいに洗って、リンスなどもしっかり使い、摩擦を減らした状態で、梳き櫛で全体を梳いていくのが痛くないコツになると思います。

池田

海外で売られていて、ある会社が申請されているという薬はどのようなものなのでしょうか。

山口

ジメチコン製剤というのがありまして、シリコンが成分として入っているのです。これがシラミ、虫の気門、空気の通り道のところを物理的に閉塞させて窒息死させるような薬で、けっこう海外では広く市販薬として使われている薬です。スミスリンで効かないシラミにも有効であるのがわかっています。

池田

市販というと、普通のドラッグストアでも買えるということになりますね。

山口

そうですね。

池田

意外と安心感がありますね。特に大きな副作用はありそうな感じではないですけれども。

山口

ヨーロッパやアメリカなどでは広く使われていますので、安全性には特に問題はないと思います。

池田

これはシリコンなのでしょうか。

山口

はい、シリコンです。

池田

日本に導入された際、また詳しく聞きたいのですが、簡単にいうとどのような感じで使うのでしょうか。

山口

使い方としては、スミスリン製剤とそう変わらないのですが、基本的に乾いた状態に塗って、やはり5~10分放置し、それをシャンプーを使いながら洗い流すことになると思います。これを3日おきに3回繰り返して処理をします。

池田

やはり卵には効かないのですか。

山口

スミスリンの場合は卵には効かないのですが、ジメチコン製剤に関しては卵にも効きます。それでも数が多いと1回では駆虫できないので、複数回使う必要があります。

池田

1回やって、2日置いて、また1回。計3回ですね。

山口

はい。

池田

薬をつけて5分してシャンプーで洗い流してしまいますよね。梳き櫛はそこにどう絡んでくるのでしょうか。

山口

特にスミスリン製剤に関しては、薬だけに頼って、それだけで駆虫しようと思うと耐性化シラミが残ることがあります。やはり梳き櫛も使って、物理的な除去というのも併用して治療するのがすごく大事なことになると思います。

スミスリン製剤なりジメチコン製剤なり、そういったもので処理した後、髪の毛を乾かした後にしっかり梳き櫛で、できる範囲でどんどん卵、虫を取っていく。手間を加えることでよりしっかり駆虫ができると思います。

池田

ジメチコン製剤であろうが、スミスリン製剤であろうが、とにかく乾かした後は、必ず梳き櫛で卵も虫体も減らすことが基本になるのですね。

山口

そうですね。早く気づいて短期集中で駆虫できるかが大事かと思います。

池田

ありがとうございました。
※ 2021年8月にジメチコンのローション製剤が発売されました。スミスリン耐性アタマジラミと考えられる場合は、このジメチコン製剤の使用をご考慮ください。