山内
岸川先生、肋間神経痛というと、我々の世代では昔から非常によく使っていた病名ですが、最近あまりお目にかからなくなった気もします。いかがでしょうか。
岸川
実際、いわゆる肋間神経そのものの障害による肋間神経痛が少ないのではないかと最近はいわれています。多くの場合は症候性肋間神経痛ということで、もともとの疾患で、虚血性心疾患、肺梗塞、気胸、脊椎の疾患、それによる痛みの反映、そして外傷による肋骨そのものの骨折による肋間神経痛というものが多くあります。
山内
特発性はあまり多くないと見てよいのでしょうか。
岸川
はい。実際、私の病院のペインクリニック外来でもいわゆる特発性の肋間神経痛の患者さんそのものは何年かにおひと方という頻度です。そのため、少ないという印象を持っています。
山内
むしろまれと考えてもいいぐらい少ないのですね。そうしますと、多くの疾患の鑑別が必要となるのですね。その前に実地医家で、こういった方が来られたときに問診で何か少し参考になる情報といったものはありますか。
岸川
主訴としては痛みですが、ビリビリとかジンジンとか、ある姿勢を取ったときに電気が走るような感じがする、その表現で神経が障害されているのではないかという予測を立てます。
山内
いわゆる神経の痛みがくるということですね。
岸川
はい。
山内
ただ、チリチリ、ビリビリとなると、帯状疱疹も似たようなもので、実際、胸部は好発部位でもあります。これには常に気をつける必要はありますね。
岸川
そうです。帯状疱疹でしたら、痛みが出た後に皮疹が出るというパターンもあります。
山内
1~2日はそれを念頭に置いて見ないとだめですね。
岸川
はい。
山内
例えば運動臓器の場合ですと、姿勢によって痛みの増強といったことはありうるのでしょうか。
岸川
ありえます。
山内
主なものは、虚血性心疾患や肺の病気ということで、次のステップは画像診断でよいのですか。
岸川
はい。
山内
画像診断がなかなかできない施設では、どこか大きなところに行って、そういったものを見ることになりますね。
岸川
はい。
山内
次に骨関連になりますが、椎骨、肋骨のあたりですとどういった病気が考えられるでしょうか。
岸川
いわゆる脊椎疾患で脊柱管狭窄症、胸部もありますし、椎間板ヘルニア、そして化膿性脊椎炎、あと脊椎の腫瘍という可能性もあります。
山内
腫瘍ですか。そうすると、これは転移になりますか。
岸川
転移もありますし、原発もあります。
山内
なかなか広いですね。脊椎疾患は、我々はあまり多くは見ないのですが、胸骨や肋骨といったあたりにも比較的好発するものが多いのでしょうか。
岸川
そうですね。特に今、患者さんの高齢化に伴いまして、脊椎疾患で手術になる患者さんも一昔前に比べたらかなり多くなっています。手術そのものも低侵襲な手術が多くなっており、手術の適応になる患者さんの数も多いので、脊椎疾患そのものの数も増えているのではないかという印象はあります。
山内
手術後にも出てくると考えてよいのですね。
岸川
はい、出てきます。
山内
先生のところですと大学病院ですから、こういったあたりはいろいろな疾患が出てくるのでしょうね。
岸川
はい。
山内
ただ、それほど頻度は多くないと見てよいのですね。
岸川
はい。
山内
そういったことで画像診断などで、虚血性心疾患とか肺疾患、あるいはがんなどが判明したものにつきましてはそれぞれ専門医に行くとして、それ以外のものについては治療を求められる場合が多いかと思いますが、治療としてはどういったものになるのでしょうか。
岸川
いわゆる肋間神経ブロック、硬膜外ブロック、それから神経根ブロック、そしてブロック以外には内服薬で抗痙攣薬、抗うつ薬の内服があります。当然肋間神経痛にまだなり始めて日が浅い場合はNSAIDsという治療の選択もあります。
山内
痛みへの対策ですが、特発性は極めてまれだとすると、いろいろなものを除外しようと試みたけれども、よくわからないものも入ってくるのですね。
岸川
はい。
山内
それともう一つは、実際に原因がわかっても、痛みに対しては対症療法で、いずれにしても同じような治療法になることがあるとみてよいのでしょうか。
岸川
はい。
山内
先生方ですと、ブロックをまずチョイスすると考えてよいのでしょうか。
岸川
そうですね。
山内
神経ブロックは痛み始めてからどのぐらいまでの時期の間だと有効なのでしょうか。
岸川
いわゆる原因がわかっていて肋間神経痛になっている場合は、その原因となる疾患に罹患した日が浅ければ浅いほどよいと思います。それと、いわゆる特発性、原因がわからないで肋間神経痛になっている患者さんの場合は、神経ブロックというのは診断的意味合いもありますので、特に時期はいつがいいということはありません。
山内
例えば、2~3カ月たってしまったというケースもあるかと思いますが、これも一応適応になるのですか。
岸川
治療にはなりえます。いわゆる局所麻酔薬とステロイド薬を用いた肋間神経ブロックで鎮痛が可能であれば、次のステップとしていわゆる神経破壊薬を用いたブロックを行ったり、それから高周波の熱凝固、熱で神経そのものを変性させて、疼痛の閾値を変えます。永続的に神経が変性するわけではないので、数カ月に一遍、繰り返しにはなるのですが、神経そのものを変性させて痛みの閾値を変えるという治療法もあります。
山内
治療効果は非常にいいのでしょうね。
岸川
はい。
山内
この神経痛をほうっておいた場合の自然経過はどうなのでしょうか。
岸川
やはり治りにくいです。
山内
そうすると、速やかな治療ブロックをやらないと、自然に治ることはほぼ絶望的と考えてよいのですね。
岸川
はい。症状がなくなっても、何年かたつとまたやってくる。症状が出たり出なかったりの繰り返しになるのではないかと思います。
山内
そういったことも絡むかもしれませんが、メンタル的な側面で症状が非常に大きくなることも考えられますね。
岸川
はい。
山内
PTSDのようなタイプもあると考えてよいのですね。
岸川
はい。
山内
とりあえず痛み止め、経口薬でしばらく様子を見ようといった場合はどういった薬剤が勧められますか。
岸川
先ほども申しましたように、ごくごく早期の場合はNSAIDs等ですが、ある程度時間がたった場合は抗痙攣薬、そして抗うつ薬の内服をしていただきます。
山内
抗痙攣薬はよく聞きますが、なかなか敷居が高かったです。最近はプレガバリンが出てきています。この薬の使い方のコツはどういったものでしょうか。
岸川
まずは副作用に注意することが必要です。ごくごく少量を最低限の25㎎の少量投与を入眠前に1回行ってください。そして次の日のふらつき、足のむくみ等々の副作用の出現を見て、効果があれば少しずつ増量していく。患者さんには効くかどうかわからないとはっきり言って、ごく少量をそうやってのんでいただく方針で行っています。
山内
もう一つ出てきました抗うつ薬、これも効果があるのかないのか、よくわからなくなりがちですが、この使い方に関してはいかがでしょうか。
岸川
こちらも抗痙攣薬と同様に最低限の量を入眠前に行ってください。こちらの薬もふらつき、眠気、それから三環系抗うつ薬になると特に口渇、口の中が渇いたような感じになるという副作用が出ますので、副作用に注意しながら増量していくことになります。
山内
高齢者も多いので、このあたりの薬については、注意しながら使用、ということになるでしょうね。
岸川
はい。特に抗うつ薬で三環系抗うつ薬を処方する場合は、虚血性心疾患の症状、心電図変化等々の影響を与えます。極端すぎるかもしれませんが、投与前にコントロール心電図を記録していただいて、投与期間中にも心電図を記録してフォローしたほうがいいのではないかと考えています。
山内
どうもありがとうございました。