山内
齋藤先生、花粉症のアレルゲンを見るときに、特定のアレルゲンに対する特異的IgEはけっこう高いのに、総IgEがあまり上がっていない、なぜだろうと思うことがありますが、これはよくある話なのでしょうか。
齋藤
けっこうあります。例えば花粉やダニなどの特異的なものだけは高く、総IgE、IgE RISTと呼ばれる検査ではあまり高くないという患者さんはよくおられます。
山内
この両者の乖離の例ですが、例えば総IgEが高いのに特異的IgEが意外に引っかからないといったケースですと、まずどういった理由が考えられるのでしょうか。
齋藤
総IgEというのは、一言でいうとアトピー性の体質があるかどうかを調べるものと考えていただいてよいと思います。IgEといいましても、ダニや花粉だけではなくて、無限といっていい、体ではこの世の中のいろいろな物質に対するIgEというものが産生されます。その中のダニやほこりや花粉は本当にごくごく一部の抗原でしかなく、総IgEは無限と考えられる抗原に対するIgEですから、その量の規模が全然違うのです。なので、花粉やダニやほこりなどに対するIgEは高くても、総IgEとしてはそれほど高くないという症例はいくらでもあるということです。
山内
確かに私どももそういうケースはよく見かけますね。それは今の説明にあったように、無限にある抗原が総和で集まったものが総IgEと理解してよいのですね。
齋藤
はい、けっこうです。
山内
確かに特異的なものが非常に高いのに、総IgEがそれほど高くないケース、これはあって当然というのはよくわかります。逆に特異的なIgEはあまりこれといったものがない。けれども、総IgEはわりに高い。例えば魚のサバなどにIgE抗体があるようなないような、その方自身はサバに対するアレルギー反応があると主張しているようなケースでは、どういったことが考えられますか。
齋藤
魚に対するアレルギーを持っている方はたくさんいますが、一つの可能性としては、魚自体に対してのIgEがあるのではなくて、魚が食べている、あるいは魚の体の中にいる寄生虫や寄生虫のかす、死骸などに対するアレルギーを持っている。あるいは、魚の中でも、魚の身ではなくて、魚の細かい部分の、何らかの蛋白に対するIgEだけが非常に高かったりする場合は、魚の身の特異的IgEを調べても全然高くなく、でも実際には魚のアレルギーがあるという症例になってきます。
山内
IgEの性格を少しお話しいただきたいのですが、半減期としては長いのか、短いのか、いかがでしょうか。
齋藤
半減期は基本的には数日です。マスト細胞に結合した場合には4週間ぐらい。ですから、数日でIgEはなくなってしまうのですが、いったんアレルギー反応が始まってしまったら、2日では済まない場合があります。
山内
花粉症でいいますと、スギ花粉のような一時的なものがありますが、一方でハウスダスト、ダニは通年性が多いですから、こういったものに関しては年中上がっていると考えてよいのですね。
齋藤
そうですね。
山内
さて、総IgEの臨床的な意義に移りますが、測定の意義としては、どのようにとらえられていますか。
齋藤
総IgEが高い場合には、まずはよくありがちな抗原に対する、ほこり、ダニ、花粉に対するIgEがそのままものすごい量で高いパターンが、非常に臨床的でわかりやすいパターンです。あとは、特異的抗原がそれほどわからないけれども、先ほどの魚の中のアニサキスのかすのように、いろいろな抗原に対するトータルなIgEが高いだけのパターンですね。もともと寄生虫に対して働くものではないかといわれています。あとは、めったにないのですが、あまりにもIgEが高いのに何にも症状がない場合は、もしかしたら骨髄腫などがあるかもしれないと考えたりします。
山内
先ほど体質の話が出ましたが、IgEが高い体質とは、何になるのでしょうか。
齋藤
それはヘルパーT細胞といわれる免疫細胞からのIL-4の出やすさになります。IL-4が何に依存して出やすいのか、出にくいのかはヒトでは厳密にわかっていないところもあります。ですが、Th2細胞からIL-4等のサイトカインが出て、それがB細胞を刺激してIgGが出るところをIgEに変えてしまう。発射するミサイルをIgGからIgEに変えてしまうという、そのなりやすさがいわゆる「アトピー体質」になります。
山内
すると、結局IgEが高いケースはアトピー体質があると考えてよいのですね。
齋藤
そうですね。Atopicという意味はそのままIgEが高いと考えてもらってけっこうです。アトピー性皮膚炎は必ずIgEが高いですし、喘息の場合はアトピー性気管支炎と言わないのは、いわゆるIgEが上がらない喘息の人がいくらでもいるからです。成人では6割以上、IgEが高くない喘息の人がいます。
山内
アトピー性皮膚炎ですと、ほぼ100%の方が上がる。喘息ですと30%ぐらいしか上がらない。
齋藤
成人でですね。
山内
あと、先ほどの寄生虫だと非常に上がりやすい。
齋藤
そうですね。海外の寄生虫がまだいっぱいいるような国ではIgEが非常に高い状態です。
山内
そうなりますと、例えば臨床的な使い方として、総IgEが高い場合、一つはアトピー性皮膚炎、これはかなり診断に直結する、役立つ指標ですね。
齋藤
そうですね。例えば、今はそれほどでもないけれども、子どものときはけっこう皮膚が荒れやすかったとか、そういう軽度のアトピー性症状がある方などですね。
山内
そういったものがない場合で何かほかの所見、特に好酸球などが上がっていたら、寄生虫をかなり疑う一つのきっかけになるのですね。
齋藤
そうですね。好酸球とIgEはセットのようなもので、アレルギーのときもIgEと好酸球は上がりますし、寄生虫のときにもIgEと好酸球が上がります。
山内
総IgEの量ですが、これが非常に高いと先ほどのアトピー体質がひどいのでしょうか。
齋藤
症状があればですね。何万レベルの、普通何百とかなのですが、何万単位のIgEが出ているのに症状がないという方も割合としてはそんなに多くはないですけれども時々います。
山内
その値の絶対値と臨床症状の激しさは必ずしも結びつかないのですね。
齋藤
結びつかないですね。
山内
最後に、特異的アレルゲンがらみですが、よく犬とか猫といったペットの抗原に対して、非常に高い反応があるのに、実際の臨床症状と結びつかない、家庭の中に犬や猫を飼っていないといったケースもあります。こういった場合はどのように理解するのでしょうか。
齋藤
人間は、知らず知らずのうちにけっこう抗原に触れているのです。隣の家で犬を飼っているとか、子どものとき猫を飼っている友達の家によく遊びに行っていたとか、そういうことによってB細胞がいわゆるメモリー(記憶)細胞として抗体を出す準備をしているのです。それがある日突然、また友達の家に行って猫や犬に直接触れることによって、犬や猫の抗原に特異的なTh2細胞やB細胞が活性化されてIgEが産生されてくることがあります。
山内
どうもありがとうございました。