山内
今回のテーマでは慢性とついているので、くも膜下出血などは除外しますが、少し気になるのは脳腫瘍の痛みがありますね。あれはこういう慢性型の痛みにはならないのでしょうか。
荒木
脳腫瘍の場合、最初はあまり頭痛を訴えない方が多いのです。と申しますのは、頭蓋内で痛みを感じている組織は、脳を取り巻く硬膜という膜と、脳にいっている血管の動脈や静脈です。血管は太いところのほうが痛みを強く感じます。そのため太い血管か硬膜を巻き込まないと、脳実質自体は痛みを感じないと考えられていますので、脳腫瘍の場合はかなり大きくなってこないと痛みは訴えないだろうと思います。
山内
そうすると、痛みを訴えるころにはほかの症状も出てきていると考えてよいのですね。
荒木
そうです。いわゆる神経症状、脳の機能障害に伴う症状が出てきていることが多いと思います。
山内
慢性緊張型頭痛は片頭痛と合併している例もあるようですが。
荒木
緊張型頭痛の方で時々強い頭痛がある方は、よくお聞きすると片頭痛も持っている方を見受けます。両方のタイプの頭痛を持っている方がけっこういるのです。緊張型頭痛というのは全人口の20%ぐらいの方に認められるのですが、片頭痛はだいたい日本で8%ぐらいといわれていまして、こういう片頭痛と緊張型頭痛を合わせると、だいたい30~40%ぐらいの国民の人たちにそういう慢性頭痛があると考えていいかと思います。
山内
ほとんど国民病の世界ですね。非常に多いので、両者が合併することもあると思われますが、この場合は独特の症候群になってしまうのでしょうか。
荒木
一回一回の頭痛をよくお聞きしますと、非常に片頭痛的な頭痛の拍動性の頭痛で来る場合と、締めつけられるような違うタイプの頭痛があって、ご本人も2種類あるような気がすると、わかっている方が多いと思います。
山内
そういった訴えをなされる方は、今日は片頭痛、別の日は緊張型頭痛と、診断名を分けると考えてよいのですか。
荒木
ある程度ご本人が気づいていて、自分でも今日はどっちのタイプかをわかる方が多いと思います。
山内
緊張型頭痛は非常にありふれた頭痛ですが、昨今、スマホとかパソコンの見過ぎではないかというイメージがすぐに湧きます。いかがでしょうか。
荒木
まさにそうでして、一定の姿勢で長時間いらっしゃる方に緊張型頭痛は多いです。
山内
パソコンを見るなというわけにもいかないですから、どう対処したらよいでしょうか。
荒木
姿勢を変えるということでは体操が一番お勧めだと思います。我々は頭痛体操と呼んでいますが、首筋の筋肉を伸ばしたり、肩の周囲の筋肉を動かすという頭痛体操、あるいはラジオ体操でも結構です。1回は1~2分でよいですが、1日4~5回、3食前と寝る前とおやつ前に勤務中でも軽く1~2分ならできるかもしれない。そういうことをお勧めしています。
山内
それは非常にお手軽といえばお手軽ですね。
荒木
一番よく効くのは体操だと思います。
山内
肩の筋肉を伸ばす体操ですか。
荒木
肩を回したり、あとはいわゆる伸びをするような体操を入れると、けっこう楽になる方が多いです。
山内
確かに首を固定するかたちで肩を回すと、首の筋肉が伸ばされたり、逆に収縮したりということがあります。こういったものがいいと考えてよいのですね。
荒木
そうですね。筋肉を少し伸ばしたり、回したりがいいかと思います。
山内
こういった運動をすることで実際に治るものなのでしょうか。
荒木
これは毎日小まめに、1日4~5回ずつ続けていただくと、1カ月ぐらいするとかなりの方がよくなってきたとおっしゃいます。
山内
そんなに効果があるものなのですね。
荒木
効果はあると思います。
山内
印象的には頑固なものと考えがちですが、意外に短期効果があるのですね。
荒木
そうですね。体操は意外と思ったより効果が出ると思います。
山内
予防効果にもなるのでしょうか。
荒木
予防効果にもなります。緊張型頭痛の場合には完全に予防効果がありますし、片頭痛の方は、片頭痛が起きているときに体操すると頭痛が悪くなるのが特徴ですが、片頭痛の方も頭痛がないときに体操を行うと片頭痛の予防効果も少しはあると思われています。
山内
もう一つ、眼精疲労ですね、こちらも現代病でしょうが、こういったもので来るケースも多いのでしょうね。
荒木
パソコンをずっと見ていて、ドライアイになっている方もなりやすいですし、いつも焦点が変わらないと眼精疲労となり、頭痛の原因となることがあります。
山内
慢性頭痛の方が来られたら、眼科に一度受診していただくほうがいいのですね。
荒木
はい。
山内
さて、今回の質問ですが、痛み止めのNSAIDsに依存症的になっている方がいるということで、具体的にどういったものでしょうか。
荒木
これはNSAIDsだけではないのですが、いわゆる緊張型頭痛や片頭痛のような慢性頭痛と呼んでいる頭痛の方は、一般に頭痛に対する薬、NSAIDs、あるいは片頭痛ではトリプタン系薬剤を使います。このような薬をある一定期間に一定以上のみ過ぎると、薬剤の使用過多による頭痛という別の頭痛が起きてくるといわれています。薬剤の使用過多による頭痛が、今回の質問の方はNSAIDsで起きたと考えていいと思います。
山内
具体的にはどのぐらいの量から出てくるものなのでしょうか。
荒木
NSAIDsは一般に1カ月に15日以上服用を続けて、3カ月ぐらいすると起きるといわれています。
山内
わりに簡単に起こってしまうものなのですね。
荒木
片頭痛の方のトリプタン系薬剤ですと、1カ月に10日以上使って、3カ月ぐらいするとやはり起きるといわれています。これは頭痛に対する薬で頭痛がかえって悪くなるという特殊な現象です。この薬剤の使用過多による頭痛は、慢性頭痛の方にしか普通は起きないといわれています。どういう症状かというと、この方もNSAIDsを服用すると一時的には頭痛はよくなるのです。ただ、その効果が切れてくると必ず頭痛になるという症状でして、月に半分以上が頭痛で悩んでいる状況になってしまうのです。
山内
メカニズムはどういったものなのでしょうか。
荒木
これは脳において、いわゆる痛覚に対する過敏性が生じるといわれていて、我々は感作と言っています。脳の感作が起きるという言い方をしますが、疼痛に対する閾値が下がってしまう現象です。痛みに対する閾値が下がって、すべてを痛みとして感じてしまうという、厄介な状況が起こるのです。
山内
例えばリウマチなどでロキソプロフェンを長期に使われている方がいますが、こういった方では起こらないのですね。
荒木
リウマチ疾患だけの方でしたら起きないと思います。ただ、リウマチの方で、もともと片頭痛あるいは緊張型頭痛を持っている方ですと、薬が多くなるとこういう状況が起こる可能性があると思います。
山内
さて、最後の対処法ですが、そういうことがわかっていますから、まず患者さんに説明すれば、それでいいということでしょうね。
荒木
患者さんにこういう現象が起きることを理解していただくと、本人もそれに対応してくださることはよくあります。
山内
厳密には依存症ではないと考えてよいのですね。
荒木
依存症ではありません。依存症ではないので、理解したらやめられると思います。
山内
どういったものが具体的な対応としてあるのでしょうか。
荒木
まず原因の薬剤を中止することが一番大事です。2番目にはその出ている痛みに対して別の薬剤で対応する。例えばCOXインヒビターを使うとか、アセトアミノフェンに変えるとかです。3番目には、頭痛には予防薬というものがあり、片頭痛だとバルプロ酸とか、効能外ですがアミトリプチンのような薬を予防薬として併用する。緊張型頭痛の場合には筋弛緩薬が有効ですので、チザニジンのような薬を一緒に使うと早くNSAIDsをやめられる状況になります。
山内
例えばNSAIDsの量を減らしてもあまりうまくいかないのでしょうか。
荒木
減らすことによってある程度効果は出ますが、できたら1~2カ月ぐらい、完全にその薬に手を出さないのが一番の治療法になるといわれています。
山内
どうもありがとうございました。