ドクターサロン

 池脇 新型コロナのワクチンが最大の関心事になっている中で、乳幼児も忘れてもらっては困るという意味から、ワクチンについて多屋先生にお話をうかがいたいと思います。
 このドクターサロンで、10年ほど前に、1日に同時に複数の予防接種をしていいものかという質問をいただきました。そのときお答えになった先生はやや慎重な様子でしたが、その後、大きな反響がありました。いや、複数やるべきではないかと。現実問題として、当時、複数接種はあまり定着していなかったのですが、今は欧米並みの複数接種の時代に大きく変わってきたようです。これはどういう経緯なのでしょうか。
 多屋 10年前は、まだ日本で接種することができるワクチンの種類がそんなに多くなかったのです。2008年にHibワクチン、2010年に小児が受ける肺炎球菌ワクチンなど、こういうところから接種することができるワクチンが増えてきて、特に生後2カ月にワクチンデビューしましょうというのが、大きく国民の皆さんに広まってきたところかと思います。
 生後2カ月で受けることになるワクチンは、Hibワクチン、小児用の肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチン、さらに2020年10月からはロタウイルスワクチンが定期の予防接種になりましたので、これを飲みます。接種すべきワクチンの種類はこのようになっているので、今はほとんどの方が、生後2カ月でこれらのワクチンを同時接種する方法を取られているかと思います。 生後3カ月になったら、4種混合ワクチンが始まって、Hibワクチン、小児用の肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチン、ロタウイルスワクチンの2回目接種が始まっていく。そんなスケジュールで子どもたちは予防接種を受けていると思います。
 池脇 10年前と大きく違うのは、ワクチンによって予防できる病気の数が増えてきたことですね。
 多屋 はい。多くなったと思います。任意接種では受けることができたけれども、まだ定期接種になっていなかったワクチンもあります。B型肝炎ワクチンなどはそうで、随分前から受けることはできたのですが、定期接種に入ったのが2016年10月からということもあり、乳児期に接種するワクチンの種類がすごく増えたことがあると思います。
 池脇 当然1回でワクチン接種が済む疾患は少ないので、2回、3回、場合によっては4回となると、ある一定の期間の中にそれを入れ込もうとすると、とても1回1種類では足りませんね。そこで問題になってくるのは副反応を含めた有害事象は大丈夫なのかという、日本独特のものだと思うのですが、そのあたりはどうクリアされていかれたのですか。
 多屋 10年ぐらい前はそういうことを心配される方も確かに多くいらっしゃったと思うのですが、今はほとんどの方が4種類、あるいは5種類、同時接種を受けています。また、厚生労働省のほうでも4種類あるいは5種類同時接種を受けたときの健康状況調査、すなわち熱が出る人がどれぐらいいるかということもしっかり報告してくださるようになったのです。
 それを見てみますと、例えば4種類のワクチンを同時に受けた場合、どうしても接種後に副反応を疑う症状が出てしまうのですが、1+1+1+1の足し算にはなりますが、それが4より多くなってしまうことはありません。なので、ほとんどの方が4種類あるいは5種類の同時接種を生後2カ月、3カ月のときにされているのではないかと考えています。接種を同時にしたからといって有害事象、副反応が増えることはないことが、多くの方に知られていると思います。
 池脇 海外から見ると、どうしてそんなに慎重なのだろうと思っていたのが、ようやく同じようなシステムになったというところでしょうか。
 多屋 この10年で大きく変わったように思います。保護者の皆さんもそれが普通だと受け止めているのではないかと感じています。
 池脇 現状、ロタウイルスやHib、肺炎球菌、それからB型肝炎について、だいたい生後2カ月でワクチンデビュー。そこから毎月、4種類ぐらいを接種していって、とりあえず半年ぐらいでちょっと一段落というスケジュールに見えます。これが標準的なモデルと考えてよいのでしょうか。
 多屋 おっしゃるとおりだと思います。生後2カ月から始まるものが先ほど申し上げた4種類、そこに生後3カ月のときに4種混合ワクチン、すなわちジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオの混合ワクチンが入ってきます。これらのワクチンはだいたい0歳の間に3回接種します。Hibも3回、肺炎球菌も3回、B型肝炎も3回。ロタウイルスワクチンは2回のものと3回のものの2種類があります。4種混合ワクチンも0歳の間に3回です。1歳になったらHib、肺炎球菌、4種混合ワクチンは4回目の接種があります。B型肝炎は3回で、0歳で終わりです。ロタウイルスワクチンも2回または3回で終わりです。4種混合、Hib、肺炎球菌ワクチンにつきましては、1歳になってから4回目があるというのを忘れないでいてほしいと思います。
 池脇 予定どおりに半年ぐらいまでやってひと安心するけれども、また1歳のときに、次のピークという言い方は変ですが4回目の接種、そして1回目の麻疹、風疹や水疱瘡、これを忘れないようにしなければいけないということですね。
 多屋 そうなのです。4回目と、先生がおっしゃるように、麻疹・風疹混合ワクチン、そして水疱瘡を予防する水痘ワクチン。水痘ワクチンは1~2歳で2回接種します。MR、すなわち麻疹・風疹混合ワクチンは1歳のときと小学校入学前1年間の2回で、少し間隔が空きます。そこに任意接種でおたふくかぜワクチンを接種するお子さんも多いので、1歳のときにはMR、水痘、おたふくかぜの初回接種があって、そこに0歳から受けてきたワクチンの4回目が入ってくる。
 なので、生後2カ月から半年ぐらいまでのところにまず、たくさん受ける時期があって、1歳から1歳半の間にまたたくさん受ける時期があります。BCGだけは生後5~8カ月で1回接種ですが、それも忘れないようにしていただいて、あとは今申し上げたようなスケジュールで組んでいただくのがいいかと思います。
 池脇 こういったことを可能にする一つの手助けとして、予防接種法で例えば生ワクチンの次の生ワクチンは1カ月とか、経口の生ワクチンも1カ月だったものが、一部のものを除いて制限がなくなったのも大きいのでしょうか。
 多屋 ワクチンの種類は不活化ワクチンと生ワクチンの大きく分けて2つあります。生ワクチンでも、注射の生ワクチンと飲む生ワクチンと2種類あります。 注射の生ワクチンの場合は世界のどこも、ほとんどの国が別の種類の注射の生ワクチンを受けるときに、27日以上間隔を空けて受けるのですが、海外では不活化ワクチンの場合は特に制限がないという状況でした。また、ロタウイルスワクチンが定期接種に入ったのですが、飲む生ワクチンも、特にそれを飲んだからといって1カ月、27日以上空けないといけないというのは、海外ではなかった制度なのです。 日本も接種する種類が増えていることもあって、同時接種をすればそういう問題はないのですが、接種間隔の制限を撤廃してほしいという意見が随分前からあって、それが2020年10月に変更されました。
 池脇 まだけっこう最近のことなのですね。
 多屋 そうです。ロタウイルスワクチンが定期接種になると決まったときに一緒に、注射の生ワクチン同士以外の接種間隔は撤廃しましょうということになりました。ただ、気をつけなければいけないのは、同じ種類のワクチンを複数回受ける場合は接種間隔が決まっています。だいたい1カ月ぐらい空けます。生後2カ月、3カ月、4カ月で受けるワクチンが多いですが、同じ種類のワクチンを受けるときは間隔を空けないと、免疫のつきがよくないという注意点があります。
 池脇 現場の状況を考えたときに一つお聞きしたいのは、ロタウイルスワクチンは経口ですからいいのですが、それ以外は全部注射ですよね。
 多屋 そうです。注射です。
 池脇 赤ちゃんのどこに複数回打てるのか。打つ場所を広めにしていくのでしょうか。
 多屋 上腕に接種されることが多いと思うのですが、例えば左腕と右腕、もう一つは太ももの部分、左の大腿部、右の大腿部、これで4種類同時接種されることも多いですし、上腕に間隔を空けて2種類ずつ接種されることもあると思います。なので、接種する部位は腕だけでなくて、大腿部、太ももに接種されることが増えているように思います。
 池脇 多種のものを何回も打つとなると、保護者の方が主導するのではなく、かかりつけの小児科医が中心になるのでしょうか。
 多屋 生後2カ月からワクチンが始まりますが、例えば妊婦健診のときに小児科医が来て説明してくださったり、生後1カ月健診で説明してくださったり、いろいろなところで保護者の方へ説明していただく機会はあると思います。生後2カ月から始まりますので、それまでにここでこれからワクチンを進めていこうというかかりつけの小児科を決められて、その医師と相談してスケジュールを立てていくのも、最初はいいかもしれません。
 池脇 新型コロナウイルスのワクチンも大事ですが、将来の国の宝である子どもたちのワクチンのスケジュールが、周知されて徹底するといいですね。
 多屋 おっしゃるとおりだと思います。新型コロナウイルス感染症の流行でワクチン接種のために受診するのを控えていらっしゃった方もいたように聞いています。何とかワクチンは遅らせないで、接種時期がきたら早く受けていただきたい、免疫を早くにつけていただきたいと思っています。
 池脇 ありがとうございました。