池脇 不整脈の治療で最近アブレーションが注目されていますが、心室頻拍(VT)のアブレーション治療はいつぐらいから治療の選択肢として登場してきたのでしょうか。
副島 1980年代にカテーテルのアブレーションというコンセプトが出てきて、動物実験から始まりました。当時すでに、主にペンシルベニア大学でVTに関する知見が発表されていました。主に心室瘤のある陳旧性心筋梗塞患者で、VTが持続する患者さんに対する心内膜切除術と冷凍凝固による治療が始まりです。その後、同様の手技をカテーテルで行うのがカテーテルアブレーションです。器質的心疾患に合併するVTに対するアブレーションは、1990年代の3次元のマッピングシステムの開発により飛躍的に進歩しました。
池脇 先生がブリガム(ハーバード大学)に行かれた時期ですね。
副島 そうですね。私がブリガムに行ったのが1998年です。前年東京女子医科大学の笠貫先生が会長をされた日本ペーシング学会の折、3次元マップの開発者の先生が来日され、すごいものが世の中に出るなと見ていたのを覚えています。
池脇 最近は、心房細動(AF)のアブレーションが脚光を浴びて普及しています。多少の例外はあるかもしれませんが、AFのアブレーションは緊急性がなく、予定して行うものですが、VTの場合は症例によっては緊急でアブレーションというのもあるのですよね。
副島 患者さんによっては、ストームといって、1日24時間のうち3回以上電気ショックをかけなければいけないような発作がある方だと、非常に予後が悪くなります。極端な例ですが、VTが止まらず血行動態が不良となり、最近では補助循環を入れてサポートしてVTを止めないことには、そこから離脱できない、非常に急を要する患者さんも多くいます。
池脇 そういう緊急性の高いVTに対してのアブレーションも最近は出てきたという話ですが、心筋梗塞後のVTもあれば、全く心疾患のない特発性のVTもあり、いろいろな病態がVTを構成しているということでしょうか。
副島 おそらく開業医がご覧になる機会が多いのは特発性ですね。特発性で多いものとしては流出路、右室流出路や大動脈近辺のものですが、もう一つがプルキンエ線維に関連する左室の特発性のVT、その3つです。
なぜ流出路に多いのかと昔から思っていたのですが、台湾からいろいろ面白いデータが出てきて興味深く見ています。心外膜脂肪は、皮下脂肪に比べて炎症物質を多く出すというデータがあって、流出路というと一番脂肪の多い場所なのです。そこでおそらくその下にある心筋に炎症を起こして、例えば活動電位の時間のばらつきが起きるとか、あと膜電位が浅くなってPVCを起こしやすくなるなどのデータが出てきたので、その辺は非常に面白いなと感じています。また、心機能の悪い患者さんで心室性頻拍が起きた場合は生命予後を左右するので、うまく治療して普通の生活に戻してあげるのは一番楽しい部分というか、患者さんにとっても人生がすごく大きく変わるところです。
数としては、さっき先生がおっしゃったAFのアブレーションが今、ほとんどを占めていますので、VTに関しては特発性のものが多くて、器質性はその次というかたちです。
池脇 器質性の中では欧米に比べると日本はいわゆる心筋症でのVTが多いのでしょうか。
副島 そうですね。日本でも特にインターベンションが盛んな地域はドア・ツー・バルーンが非常に短いので、不整脈を起こしやすい基質が少ないこと、心筋梗塞後の徹底したβブロッカー、ACE、ARBによる治療、専門医による定期的な診察なども影響していると思います。おそらく不整脈の基質はできづらいのではないかと思うのです。あと圧倒的に欧米のほうが大きな心筋梗塞、あるいは繰り返す心筋梗塞、肥満とか食生活も関係があると思うのですが、非常に不整脈を起こしやすい患者さんが多かったです。
池脇 先生がアメリカに渡られたのがもう20年以上前ですから、このアブレーションは比較的歴史があって、初期の頃と今では治療成績は圧倒的に改善していますね。
副島 はい。圧倒的に違います。
池脇 その改善している要因はどのあたりでしょうか。
副島 いろいろあると思うのですけれども、まず治療成績が改善したというのもそうですが、昔のVTに対するアブレーションは本当に半日がかりで、透視もすごくたくさん使いましたし、術者の被曝は無視できないものだったと思うのです。あと、今は成績が非常に良くなったのと、時間が非常に短くなっています。
一番の要因としては、先ほど話題に出た3次元マップというのが、形を作れるという点では20年前のものと一緒なのですが、形を作るために、これをマッピングというのですけれども、カテーテルで心筋をさわって、そこの心筋の位置情報と電気的情報、VT中の伝播などを取得して表示します。
また、昔は先端が4㎜の治療用のアブレーションカテーテルでマッピングしていたのが、最近は多極のマッピングカテーテル、多いものだと64極、少なくても20極以上の電極で一度に全部の情報が取れるのです。大きな電極だとパラボラアンテナと一緒で広い範囲の情報がわっと入ってくるのですが、小さな電極で詳細に、なおかつ多極で広範囲を一度にマッピングできるので、非常に正確に位置情報と電気的情報が得られます。昔は大ざっぱに、この辺に不整脈基質がありそうと感じていたものが、ディテールで見えてくるのです。マッピングが非常に正確になりました。
3次元マップのほかは、アブレーションのカテーテルが昔は本当に少ない範囲しか焼けないものだったのですが、先端から水を出して広い範囲、あるいは最近ですと高周波以外のエネルギーでも治療できるようなカテーテルが出てきたので、焼灼範囲は大きくなってきました。あとは合併症を予防する、あるいはしっかり焼くために必要なカテーテルの心筋接触圧をきちっとコンタクトしていなければいけないのですが、昔は術者が自分の手の感覚、あるいは透視を見てカテーテルのひずみぐあいで判断していたのです。それがグラム数として表示されるようになったので、圧倒的に被曝が減ったと思います。
池脇 デバイスの進歩によって、術者が今どこにどういう状況でカテ先があるかとか、どこがフォーカスなのか、より確信を持って把握できるようになったということですね。
副島 そうですね。まさしくそれだと思います。私が始めた頃は、3次元マップがあったので私でもできたのですが、それ以前にやられていた先駆者は、それなしに、何時間も前に見た透視の位置を、ここが悪い、あそこが悪いと、超人的な記憶でされていました。3次元マップの発展は、これから不整脈をやりたい先生を入りやすくしてくれた。患者さんにとってみれば、より安全に短い時間でできるようになった。被曝も軽減したというのは非常に大きな貢献だと思います。
池脇 VTのアブレーションに関して、これもAFのアブレーションのことを持っていって失礼かもしれませんが、最近のAFのアブレーションは1回で治そうとしないで、何回かに分けて治癒を目指すという方向で来ているように聞きました。VTというのは1回勝負なのか、あるいはそんなに無理をしないのか、どのような方針でいくのでしょうか。
副島 アブレーションの範囲というのは、いろいろな方法があり、日本では非常に少ないのですが、医師によっては心筋梗塞のところを全部焼いてしまえばVTは出ないだろうという考えの人がいないわけではないのです。なるべく元気な心筋は残したいし、無駄なところを焼くと、後日、血栓が形成されることもあるため制限しながらやっています。
AFの再発とVTの再発、同じ重みを持つかというと、VTの再発は非常に大きな意味を持つので、なるべく私たちは1回で治したいと考えています。抗不整脈薬を継続することもあります。あとはリモデリングを予防するため薬を併用しながらやらないと、また新しく不整脈の芽が出るため注意が必要です。AFも複数に分けるというよりは、早い段階で治療すれば9割発作がなくなるので、最近の方向としては早く見つけて早く治療しましょうというのがメインになってきていると思います。
池脇 同じアブレーションでも、AFとVT、若干アプローチが違うことがわかりました。ありがとうございました。
最新のアブレーション治療
杏林大学循環器内科教授
副島 京子 先生
(聞き手池脇 克則先生)
心室頻拍の治療、特に最新のアブレーション治療についてご教示ください。
埼玉県勤務医